先月、銀座本店のお預かりトレーニングを終えた柴犬のリクくん(2歳)の飼い主さまから、こんな話を聞きました。「卒業後に初めて家族旅行に行ったんです。ペット可のホテルを予約して楽しみにしていたのに、リクがずっと落ち着かなくて。部屋で吠え続けて、結局ほとんど外出できませんでした」。
話を詳しく聞いてみると、そのホテルは確かに「ペット可」でしたが、犬にとって快適な環境とは言えない条件がいくつも重なっていたのです。
「ペット可」という表記だけで安心してはいけません。犬の行動特性を理解したうえでホテルを選ばないと、せっかくの旅行が飼い主にとっても犬にとってもストレスフルな時間になってしまいます。
落とし穴1:「ペット可」の定義が施設ごとにバラバラ
最も多い誤解がこれです。「ペット可」と書かれていても、その内容は施設によって大きく異なります。
部屋の種類で制限されるケース
多くのホテルでは、ペット可の部屋は全客室のうち数室のみです。しかもその部屋が以下のような条件になっていることがあります。
- 1階の駐車場に面した部屋のみ(車の音や人の気配で落ち着かない)
- エレベーターや階段に近い角部屋(廊下の足音や話し声が常に聞こえる)
- 喫煙可能だった部屋を転用(犬の嗅覚には刺激が強すぎる残り香)
久保田シニアトレーナー(湘南辻堂・恵比寿)によれば、「犬は人間の100万倍の嗅覚を持つと言われています。タバコの臭いが染みついた部屋では、興奮状態が続いて休めません」とのこと。
サイズ・犬種による制限
「小型犬のみ」「10kg以下」といった制限は一般的ですが、中には「トイプードル・チワワ・ポメラニアンのみ可」と犬種を限定する施設もあります。予約前に必ず確認が必要です。
確認ポイント
予約時に以下を質問してください:
・ペット可の部屋は何室あるか
・その部屋の位置(階数・周辺環境)
・過去に喫煙可だった部屋か
・犬種やサイズの制限
落とし穴2:共有スペースの利用ルールが曖昧
「ペット可」と書いてあっても、実際に犬と一緒に過ごせる場所が極端に限られているケースがあります。
エレベーターやロビーが使えない
銀座本店で以前こんな相談を受けました。ゴールデンレトリバーのハナちゃん(5歳)と旅行に行った飼い主さまが、「エレベーターが使えず、3階まで階段で抱きかかえて上がらなければならなかった」と。25kgの犬を抱えて階段を上るのは、飼い主にとっても犬にとっても危険です。
また、ロビーやレストランが「ペット同伴不可」の施設も多くあります。食事の間、部屋に犬を残すことになるため、分離不安のある子は吠え続けてしまいます。
散歩エリアの有無
ホテル周辺に犬の排泄に適した場所があるとは限りません。都市部のホテルでは特に注意が必要です。
- 周辺がすべてアスファルトで、土や草地がない
- 深夜・早朝の外出が禁止されている(ホテルのルールまたは周辺住宅地の配慮)
- ホテル敷地内にドッグランがあっても、他犬が苦手な子には使えない
動物行動学では、犬は普段と異なる環境では排泄のタイミングが変わることが知られています(獣医動物行動学会の研究でも指摘されています)。散歩できる環境の確認は必須です。
チェックすべき項目
予約前にホテルへ以下を確認してください。
- エレベーター・ロビー・レストランでの同伴可否
- 食事中のペット預かりサービスの有無
- ホテル周辺の散歩コース(できれば写真で確認)
- ドッグラン利用時のルール(時間制限・他犬との接触)
落とし穴3:「ペットフレンドリー」と「犬のストレス管理」は別物
最近は「ペットフレンドリー」を謳う宿泊施設が増えていますが、設備が充実していることと、犬がストレスなく過ごせることは必ずしも一致しません。
過剰なアメニティが逆効果
犬用ベッド、食器、おもちゃなど、ホテル側が用意してくれるアメニティは一見便利ですが、以下のリスクがあります。
- 他の犬が使ったベッドの臭いで興奮・警戒する
- 見慣れない食器で食事を拒否する
- おもちゃで遊びすぎて夜眠れなくなる
寺原シニアトレーナー(銀座本店)は、「環境の変化に敏感な子ほど、普段使っているクレートやマットを持参すべきです」と話します。SOPRAの幼稚園コースでも、新しい環境への慣らし方として「安心できる自分の匂いがついたアイテムを置く」ことを指導しています。
他の宿泊客との距離感
ペット可のホテルでは、当然ながら他の犬も宿泊しています。廊下ですれ違う際、エレベーター内、ドッグランなど、予期せぬ接触の機会が多くあります。
社会化トレーニングが不十分な犬や、他犬が苦手な子の場合、こうした接触がストレス源になります。特に小型犬専用フロアがあるホテルでは、小型犬同士の吠え合いが連鎖することもあります。
旅行前に確認したいこと
愛犬が以下の状況に慣れているか振り返ってください:
・知らない犬とすれ違う(リードをつけた状態で)
・狭い空間(エレベーターなど)に他の人や犬がいる
・飼い主が食事中、クレートやサークル内で静かに待つ
不安がある場合は、旅行前にパピートレーニングやトレーニングコースでの練習をおすすめします。
「ペット歓迎」が犬の負担になる矛盾
ペットフレンドリーな宿ほど、スタッフが犬に積極的に話しかけたり触れたりすることがあります。人懐っこい性格の犬には嬉しい対応ですが、人見知りの犬には大きなストレスです。
事前に「犬が人見知りなので、スタッフの方からは話しかけないでほしい」と伝えることも可能です。遠慮せずリクエストしてください。
実際に選ぶときの優先順位
では、具体的にどう選べばいいのか。19年間で20万頭の犬を見てきたSOPRAの経験から、以下の優先順位をおすすめします。
1. 部屋の環境(音・臭い・広さ)
アメニティの充実度よりも、部屋そのものの環境を重視してください。口コミサイトで「ペット同伴での宿泊」に絞ってレビューを読むと、部屋の位置や防音性についての情報が得られます。
2. 共有スペースの利用制限
食事や移動の際に犬をどうするか、事前に明確にしておくことで、当日のトラブルを避けられます。
3. 周辺環境(散歩コース・動物病院)
万が一体調を崩した場合に備え、近隣の動物病院を事前に調べておくと安心です。Googleマップで「動物病院」と検索し、診療時間と休診日を確認してください。
4. キャンセルポリシー
犬の体調は前日まで予測できません。キャンセル料が発生するタイミングを確認し、柔軟に対応できる宿を選ぶことも重要です。
旅行前にやっておくべきこと
ホテル選びと同じくらい大切なのが、犬自身の準備です。
- クレートトレーニング:移動中と宿泊先で安心して過ごせるよう、日頃からクレートを「安全基地」として認識させる
- 短時間の外出練習:いきなり1泊ではなく、日帰り温泉やカフェなど短時間の外出で慣らす
- 健康診断:旅行の1〜2週間前に動物病院で健康チェックを受ける
- 持ち物リスト作成:普段使っている食器・フード・薬・ペットシーツ・お気に入りのおもちゃなど
SOPRAの幼稚園コースでは、お預かり中にさまざまな環境に慣れる練習も行っています。旅行を控えている場合は、事前にお問い合わせいただければ、その子に合ったプランを提案できます。
最後に
ペット可のホテルは年々増えていますが、「可」という言葉の定義は施設ごとに違います。予約サイトの情報だけで判断せず、必ず電話やメールで詳細を確認してください。
冒頭で紹介した柴犬のリクくんは、その後別のホテルを選び直して再チャレンジしました。今度は1階の専用出入口がある部屋を選び、周辺に広い芝生の公園があることも確認したうえでの宿泊。結果、吠えることなく家族全員でゆっくり過ごせたそうです。
犬との旅行は、準備さえしっかりすれば飼い主にとっても犬にとっても良い思い出になります。焦って決めず、一つひとつ確認しながら選んでみてください。
SOPRAのトレーナー一同、あなたと愛犬の毎日を応援しています。

